軽量X線光学系

宇宙X線望遠鏡の軽量かつ高性能化への挑戦

 私たちの研究室では超軽量にもかかわらず性能のよい次世代型のX線望遠鏡を開発を行っています。将来この次世代型望遠鏡と精密分光器であるTES型マイクロカロリメータを組み合わせれば一つの研究室で観測システムが構築できます。これは他のグループには類のない、私たちの研究室の強みになるでしょう。以下ではX線望遠鏡の基礎から私たちの現在の開発状況について説明していきます。

X線望遠鏡に残された課題

 X線(波長~1nm)に対する物質の屈折率は1よりもわずかに小さいために、可視光(波長~300nm)のようにレンズで集光することができません。かわりにX線を「反射鏡」上で全反射させる斜入射光学系が主に利用されています。特に反射鏡を回転放物面と回転双曲面上に固定し、2回全反射させて集光・結像させるウォルターI型と呼ばれる設計が主流です。またできるだけ多くの宇宙X線を集光させるために同心円上に数枚~数100枚も反射鏡を並べています。

 実はこの反射鏡の製作は非常に困難なのです。なぜなら光を反射させるためにはその波長と同等の表面粗さを実現する必要があります。よって波長の短いX線ならば難しくて当然です。さらに上述の通り反射鏡を数枚~数100枚も製作しなくてはいけません。ではこれまではどのように製作していたのかを代表的なものを3つ説明します。キーワードは「重量」と「角度分解能」です。

(1) 研磨法 --- チャンドラ衛星(米)など

ウォルター1型光学系に合うように鏡面形状を直接研磨します。鏡面を正確な理想2次曲面に加工することができるので、角分解能は非常に小さくなります。しかしながら鏡面基板が厚くなり、さらには有効面積(有効面積=あるエネルギーのX線の光軸方向からみた反射面積×反射率)を増大するために口径を大きくしなければいけません。その結果、重量がアメリカンになります。

(2) レプリカ法 --- ニュートン衛星(欧)など

非球面に研磨形成された雄型の母型からレプリカ鏡をつくり、基板を薄くして製作します。角度分解能も重量も比較的優れています。中間的だが存在感があるところがヨーロピアンなのです。

(3) フォイル法 --- すざく衛星(日)など

非常に薄い基板上にレプリカ法を利用して反射材を写しとって製作します。反射面を回転2次曲面の代わりに円錐面に近似して、かつ基板形状誤差などにより角度分解能がこれまでのものに比べて悪くなっています。ただし軽量なのは我らジャパニーズの得意分野です。

 このようにさまざまな方法で製作されていますが、これらの「重量」と「角度分解能」の関係をみると面白いことが分かります。横軸に望遠鏡の角度分解能(秒角)、縦軸に1 keVのX線における有効面積1000平方cm当たりの重量(kg)を前述の製作方法ごとにプロットしたものが図2です。角度分解能が小さいほど重量が大きくなるという傾向だとわかります。打ち上げコストが数100万円/kgと言われている現在では、軽量が望ましいのは当然です。これは工学的な要求です。一方、理学的には優れた性能、すなわち角度分解能の小さいことが宇宙の謎を解く重要な要因になります。私たちはこれらの要求を同時に解決できるような全く新しいX線望遠鏡を開発しています。下図でいうと右下部分にあたります。ちなみに現在のライバルはヨーロピアンです。

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私たちの望遠鏡の開発現状

 宇宙X線望遠鏡を軽量にするために、私たちはマイクロマシン、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanicl Systems)の製作技術を応用してます。MEMSとはシリコンをはじめとする半導体などをミクロン(1mmの1000分の1)サイズで加工したデバイスのことをいいます。身近なものではインクジェットプリンターのノズル部分がこの技術によって製作されています。

 このような技術を応用して私たちはいくつかの方法で同時に開発を進めています。その一つがシリコンの結晶異方性ウェットエッチング法です。単結晶シリコンは、各結晶方位によって強アルカリ溶液中で化学的に溶解される速度が異なります。とくに(111)面は、他の結晶方位に比べて100倍以上この速度が遅いことが分かっています。これを利用すると幅数ミクロンのスリット構造が製作できます。そのスリットの側壁となる(111)面の表面粗さが非常に滑らかであることから、私たちはこれをX線の反射面として利用することを発案しました。2005年度からはじまった本方法での開発は、私たちの研究室に蓄積されてきた技術力および連携機関の協力を得て、まず世界で初めて(111)面からのX線反射を検出することに成功しました。続いて実際に光学系として設計および製作したところ、ほぼ予想通りのイメージの取得することができました。これによりMEMSの製作技術を用いれば原理的に世界最軽量なX線光学系が達成できることを実証しました。

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 開発はまだ始まったばかりです。他にもいろいろなアイディアを私たちは持っています。一つ一つ地道に開発して最も良い方法を選択し、私たちの研究室が開発している検出器であるTES型マイクロカロリメータと組み合わせた観測を将来ののX線天文衛星へと提案していく予定です。

共同および連携研究機関

発表論文など

参考文献



添付ファイル: filegraph3.001.jpg 2331件 [詳細] fileimage3.001.jpg 1386件 [詳細] fileimage4.001.jpg 2396件 [詳細] fileoptics-zu1.jpg 1401件 [詳細] fileoptics-zu2.jpg 1417件 [詳細] fileoptics-zu3.jpg 1394件 [詳細] fileoptics-zu4.jpg 1418件 [詳細] fileoptics-zu5.jpg 1472件 [詳細] fileoptics-zu6.jpg 1457件 [詳細] fileoptics-zu7.jpg 1367件 [詳細] fileoptics2.001.jpg 2379件 [詳細] fileshuukou2.001.jpg 2349件 [詳細]