X線マイクロカロリメータ

我々のグループでは、将来のX線天文衛星搭載を目指して、超精密分光器であるX線マイクロカロリメータの開発を行なっています。これは6keVのX線に対し、数eVという脅威のエネルギー分解能を達成し、プラズマ状態の天体を詳細に調べる事が出来ます。特に、TES型マイクロカロリメータはすざく衛星に搭載されているXRSよりも信号の応答が約10倍速く、より輝度の高い天体の観測に用いる事が出来ます。このことは観測時間を短縮し、世界中の研究者の多くの観測提案に答えることにもつながります。

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エネルギー分解能
我々が製作したマイクロカロリメータエネルギー分解能

マイクロカロリメータとは

カロリメータとは主に吸収体、温度計、熱浴から構成され、入射X線による吸収体の温度上昇からX線エネルギーを計測します。ここで、X線による温度上昇はごくわずか(1x10^(-15) J)でありますが、素子を〜100 mKの極低温で動作させ、かつ高感度の温度計を用いることで、その温度上昇を計測を可能にしたものがX線マイクロカロリメータです。
カロリメータの性能指標となるエネルギー分解能は、素子内部で生じるフォノン数の揺らぎに起因しており、系の温度T、温度計の感度α、素子の熱容量Cを用いて次式のように表されます。

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すなわち「系の温度をなるべく低く保ち、素子のスケールをより小さくし、感度のより良い温度計を利用する」ことが分解能向上の鍵となります。

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カロリメータの模式図              熱的な過渡応答


TES (Transition Edge Sensor; 超伝導遷移端温度計)

次世代のX線天文衛星用に我々が開発している TES (Transition Edge Sensor) 型X線マイクロカロリメータは、温度計として超伝導物質を用い、超伝導ー常伝導相転移端の急激な抵抗-温度変化により吸収体の温度上昇を計測します。ここで温度計の感度は内部の抵抗Rの温度Tを用いて

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として定義されています。半導体サーミスタ温度計ではこの値αが5程度ですが、TES型温度計では1000にも及ぶため、これを利用したTES型X線マイクロカロリメータは、原理的に1eVという極限的なエネルギー分解能が実現可能となります。

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相転移点付近での温度に対する抵抗の変化

MEMS技術を用いたTESマイクロカロリメータの製作

ここでは、実際に TES型マイクロカロリメータをどのように製作しているのか、について説明します。満田山崎研究室ではマイクロマシン、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanicl Systems) 技術を用いて製作を行っており、この製作プロセスを「全て」自分たちの手で行っています。「設計」→「製作」→「測定、評価」→「再設計」→ … を一手に引き受けることで、開発期間の短期化、及び無駄のない素子製作プロセスを実現しています。下図にプロセスの手順(プロセスフロー)を示します。

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1.SiNx膜の成長

Si(001)基板上に、メンブレン構造(6. 参照)を担うシリコン窒化膜をLPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)によって300nm成長させます。

○LPCVD法とは
低圧下において、気相での化学反応による薄膜成長法をLPCVDと言います。このプロセスによるシリコン窒化膜の成長では、700〜800℃の温度でジクロロシランとアンモニアによる以下の反応が一般的に用いられ、膜の均一性が良いことが利点として挙げられます。

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2.Ti/Auの薄膜

Si基板上に、Ti、Auの順に薄膜を形成していきます。このとき形成されるの は、~50 nmと非常に薄い金属薄膜です。膜形成にはスパッタリング法を使用しています。

○スパタリング法とは
プラズマのイオンをターゲット(Ti や Au) に 衝突させることで、ターゲットの原子が空間中に飛び出します。この現象をスパッ タといい、飛散した原子を堆積させるのがスパッタリング法です。

3.Ti/Auのパターニング

上で成膜した薄膜を、TESの形にパターンニング(つまり、いらない部分を溶かして除去)しなくてはいけません。まず、半導体分野で必須の技術であるフォトリソグラフィーについて説明します。

○フォトリソグラフィーとは
感光性の樹脂(レジスト)を基板に塗って、光(紫外線)で露光した部分だけを取り除いて任意のパターンを作る技術です。この方法を用いて、TES 部分をレジストによって保護し、いらない部分をエッチング(腐食)によって除去し、パターンを形成します。

4.Al 配線形成

上で用いたエッチングとは別に、Al 配線はリフトオフという方法によって形成します。まとめると以下のようになります。
○エッチング:まず金属を全面に成膜し、必要な部分をレジストで保護して、不要部分を溶かす。
○リフトオフ:まず不要部分をレジストで保護し、その上に金属を成膜。レジストを除去するとパターンが残る。
ちなみに、Alもスパッタ法によって成膜しています。

5.吸収体形成

現在、吸収体には Au を使用しています。EB(Electron Beam)蒸着法 (電子線をターゲットに照射し、ターゲットの温度を上げて蒸発させて、 成膜させる方法) によって成膜し、リフトオフによってパターン形成しています。

6.メンブレン形成

TESを熱浴から切り離すために、Si基板を裏側から掘る(エッチング)する必要があります。KOH 溶液を用いて Si 基板をエッチングすると、素子の完成となります。

最新の成果

以上の行程で製作した素子を図1, 図2 に示します。

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エネルギー分解能
完成したマイクロカロリメータエネルギー分解能

左図の中央部分がTi/Au二重薄膜のTESになっており、その上にAuの吸収体があります。(Tiのバルクの超伝導転移温度は390mKですが、Auとの二重薄膜にすることにより転移温度を100mK程度にコントロールしています。=近接効果) 上下に伸びているのは Al の配線で、それら全てがSiN膜のメンブレン上に構成され、熱浴と切り離された構造となっています。

以上の成果として、毎年より優れたエネルギー分解能の素子を作る事に成功しています。エネルギー分解能の推移(低い程良い素子です)は
2006年 1月 : 56 eV
2006年 9月 : 23 eV  
2007年 1月 : 4.8 eV
2009年 5月 : 2.9 eV
となっており、世界 (1.8 eV) に引けを取らない素子を製作してます。

誘電体マイクロカロリメータ

これまで開発されてきた半導体サーミスタ型 (Suzaku/XRS、Astro-H/SXS) やTES型のマイクロカロリメータは、電気抵抗の温度変化からX線入射による素子の温度上昇を計測するものでした。一方、誘電体マイクロカロリメータは誘電率の温度変化を用います。これは電気抵抗型のカロリメータに比べて多素子の信号の同時読み出しが容易にできます。例えば、誘電体によるコンデンサとインダクタを組み合わせてLC共振回路を形成し、これを多数用意します。それぞれ共振周波数を違えてそれらを並列接続し、各共振周波数をモニターすれば、多素子の信号を同時に読み出すことができます。共振周波数を高周波帯 (例えばGHz帯) にたくさん並べることでCCDのようなメガピクセルの信号同時読み出しも可能であると期待されています。

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高周波帯 (GHz帯) LC共振回路による誘電体カロリメータの読み出し

現在では、例えば、誘電体画素を使った共振器の設計、極低温 (~100 mK) における誘電率温度依存性の測定、共振器のQ値の評価を行っています。

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冷凍機を用いた誘電体の誘電率温度依存性の測定と高周波回路の製作、評価


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