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早期型銀河に閉じ込められた高温星間ガスにまつわる謎とその解決

2003年3月25日

松下 恭子(東京理科大物理)、大橋 隆哉(東京都立大物理)、牧島 一夫(東大物理)

"Metal Abundances in the Hot Interstellar Medium in Early-Type Galaxies Observed with ASCA"
(あすか衛星により観測された早期型銀河の高温星間物質の重元素組成)
Publications of the Astronomical Society of Japan, 2000, Vol.52, p685-710
第7回欧文報告論文賞受賞

この論文は、以下の学位論文の一部を投稿したものである。
"X-Ray Study of Hot Interstellar Medium in Early-Type Galaxies"
(X線による早期型銀河の高温星間物質の研究)
Kyoko Matsushita, 1997, Ph.D. Thesis, University of Tokyo
本学位論文は1998年度井上研究奨励賞を受賞


1. 早期型銀河とは

我々の銀河系は円盤状の形をした渦巻き銀河と呼ばれるものですが、楕円形の形状をした楕円銀河や渦巻き銀河と楕円銀河の中間的形状であるS0銀河という種類の銀河が存在します。楕円銀河とS0銀河をまとめて早期型銀河、渦巻き銀河を晩期型銀河とも呼びます。

早期型銀河は銀河の空間密度が高いところに多く、渦巻き型銀河は銀河の空間密度が低いところに多く存在します。また、渦巻き銀河では現在も星が作られていますが、多くの早期型銀河では、現在の星形成はなく、古い星だけでできていることがわかっています。はたして、これらの銀河はどのように生まれたのでしょうか。星はいつ、どのように作られたのでしょうか。X線による観測は、重要な手がかりとなります。

2. 早期型銀河の高温星間ガスの発見

渦巻き銀河では、冷たい星間ガスが存在していて、そこで星が作られています。しかし、ほとんどの早期型銀河では、冷たいガスは存在しません。実は、早期型銀河の星間ガスはとても温度が高いためX線を用いないと観測できなかったのです。1980年代にアメリカのアインシュタイン衛星により、数百万度の高温の星間ガスが早期型銀河に発見されました。

3. 高温ガスから求まる暗黒物質の分布とX線光度の謎

この高温ガスは、早期型銀河の重力により閉じ込められています。これは、高温ガスの分布から早期型銀河に暗黒物質がどの程度あるのか調べることができるということを意味します。暗黒物質は、それ自体が重要なだけではなく、銀河の起源を考える上でも重要です。

「あすか」衛星以前、早期型銀河からのX線の強度が、同じ明るさの銀河でも二桁もばらつくということが問題になっていました。図1に楕円銀河 M86 と M 84の可視光の像とX線の像を示します。可視光でみると二つの楕円銀河はほぼ同じ明るさですが、X線でみると明るさや広がりがずいぶん違うのがわかります。「あすか」衛星を用いた観測により、X線で明るい銀河は、銀河よりももっと大きなスケールに広がり、それ自身に高温のガスを閉じ込めた暗黒物質の中心に存在しており、その結果他の銀河よりも明るくなっていることがわかりました。


図1: 楕円銀河M86とM84の可視光の像(左)とX線像(右)。写真の一辺はおよそ560万光年に相当します。

4. 高温ガスに含まれる重元素の謎

高温ガスは、古い星から放出されたものだと考えられます。つまり、ガスに含まれる重元素の量は星に含まれる重元素の量を反映します。また、古い星の一部は超新星爆発を起こして重元素を星間空間にばらまきます。古い星の起こす超新星爆発と若い星の起こす超新星爆発は違うため、どのような元素がどのぐらい星間ガスに存在するかどうかは、星がどのようにして形成されたか元素がどのように形成されたかの情報を含んでいます。

ところが、「あすか」衛星によりはじめて観測された星間ガスの重元素量は考えられないくらい低かったのでした。我々は、X線のデータ解析に含まれるさまざまな可能性を注意深く調べることにより、実際は星間ガスの重元素量はもっと高いと結論しました。さらに、X線で明るい銀河では、X線で暗い銀河より、古い星の超新星の寄与が大きいこともわかりました。この事実は、周囲の広がった暗黒物質やそこに閉じ込められた高温ガスによる、X線で明るい銀河と暗い銀河での星間ガスの閉じ込め効率の差であるのではないかと考えています。

5. これから

こうして、早期型銀河の高温の星間ガスにまつわる謎は解決されました。今後のX線を用いた研究は早期型銀河そのものに向かうことになります。早期型銀河そのものに暗黒物質はどの程度存在するのでしょうか。明るい銀河は銀河よりずっと大きなスケールの暗黒物質に囲まれていますから、銀河そのものの性質を調べるためには、暗い銀河を観測する必要があります。暗い銀河の詳しい研究は「あすか」衛星では難しかったのですが、そろそろ可能になってきました。

早期型銀河の星はどのようにできたのでしょうか。この問題にはガスに含まれる重元素の量が手がかりとなります。2005年に打ち上げられる Astro-E2衛星を使えば、いろいろな元素の量を詳しく調べることができます。特に、楕円銀河に昔重い星がどの程度存在したのかを調べることはX線観測により、いろいろな元素の量を調べるのが最も有望な手段です。


連絡先:
東京理科大 松下 恭子 (まつした きょうこ)