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新種天体で探る大質量ブラックホールの過去の輝き

2002年11月5日

村上弘志、前田良知(宇宙科学研究所)、小山勝二、千田篤史(京都大)

"ASCA Discovery of Diffuse 6.4 keV Emission Near the Sgr C Complex: A New X-ray Reflection Nebula", H. Murakami, K. Koyama, M. Tsujimoto, Y. Maeda, and M. Sakano, 2001, Astrophysical Journal, Volume 550, pp. 297-300
"Chandra Observations of Diffuse X-rays from the Sagittarius B2 Cloud", Hiroshi Murakami, Katsuji Koyama, and Yoshitomo Maeda, 2001, Astrophysical Journal, Volume 558, pp. 687-692
本記事の内容は2002年11月5日に記者発表しました。


私たち人類の住んでいる太陽系は、「銀河系」と呼ばれる星の集まりの中にあります。この銀河系は内部にいる私たちにとっては真横から見ることになるため、帯状の星の集まりに見えます。これが「天の川」と呼ばれるものです。しかし、もし銀河系を飛び出して外から見てみると、銀河系は台風の雲のように渦をまいた形をしていると考えられています。ちょうどアンドロメダ星雲のような形です。

赤外線などを使った観測により、この渦巻きの中心には太陽の数百万倍というとんでもない重さの大質量ブラックホールがあると考えられています。しかし、その存在を直接確認することは大変難しく、未だ確かな証拠は得られていません。一般的に、ブラックホールは重いほど強力な引力で周りのガスをひきつけ、すさまじい速さにまでガスが加速されます。この加速されたガスによりX線が放射され、重いほど明るく輝きます。しかし、銀河系中心のブラックホールはX線で見るとその重さのわりには異常に暗いのです。

この問題に対して、我々宇宙科学研究所と京都大学のグループはX線天文衛星「あすか」、「チャンドラ」を使ってこの銀河系中心の大質量ブラックホールが実は昔は非常に明るかったということを示す証拠をつかみました。

その証拠とは、低温ガスによる反射X線です。我々のグループは、ブラックホールから約350光年離れた場所にある低温ガスが、何かに照らされて光っていることを発見しました。図1の拡大図を見ると、低温ガスの右下半分が、ちょうど月が太陽に照らされているような形に光っていることがわかります。光っているのは銀河中心の側だけで、こちらの方向から照らされていることが窺えます。


図1: (左上)射手座B2領域の低温ガスをチャンドラで観測した図。破線は低温ガスの広がりを表している。低温ガスの中心には星があるが、それ以外に右下に広がった放射が見られる。(右下)銀河系中心領域の反射X線のイメージ。射手座B2、電波アーク、射手座Cの三つの領域から反射X線が見つかった。

照らしている光源が銀河中心にあるとすると太陽の百万倍以上もの明るさで光っていることになり、ブラックホールでないと説明できません。すなわち、銀河系の中心には確かに大質量のブラックホールが存在していることが明らかになったのです。ブラックホールから低温ガスまでの距離を考えると、X線が放射されてから低温ガスに届くまでには三百年もの時間がかかります。今見えているのより約三百年昔に放射されたX線が今反射X線として見えているのです(図2)。


図2:X線放射のしくみ。ブラックホールで過去に放射されたX線が数百年かけて低温ガスに達し、現在反射X線として見えている。

この新種天体「X線反射星雲」はほかにも二つ見つかっています(図1全体図)。ブラックホールから約90光年、240光年の距離にあります。それぞれの低温ガスからブラックホールの過去の明るさを見積もると、330年前は現在の百万倍も明るかったのが次第に暗くなり現在に至る様子がわかります(図3)。


図3:反射X線の明るさから計算した大質量ブラックホールの過去の明るさ。

X線天文学が始まったのは今から四十年ほど前のことですが、このように低温ガス雲での反射を利用することによってそれよりずっと昔の我々の銀河系の様子を知ることができました。今は鳴りを潜めているものの、私たちの銀河の中心には確かにブラックホールがあって、かつては激しく輝いていたこと、の確かな証拠を得ることができました。このことは二つの重要な示唆を与えてくれます。それは、私たちの銀河のように普通にたくさんんある銀河の中心にも大質量のブラックホールが潜んでいること、そしてそれは時として眠りから覚めて激しく輝くことです。私たちは年齢を遡るようにその活動の痕跡を集め、ブラックホールの歴史を明かにしました。


連絡先:
宇宙科学研究所 村上 弘志 (むらかみ ひろし)