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ブラックホールに吸い込まれる物質の挙動を明らかに

2002年2月4日

久保田あや, 牧島一夫 (東大物理)

"X-ray Study of Optically-thick Accretion Disks around Stellar Black Holes"
(学位論文:ブラックホール周りの光学的に厚い降着円盤のX線を用いた研究)
Kubota A., 2001, Ph.D. Thesis, University of Tokyo
本学位論文は2002年2月4日に第18回井上研究奨励賞を受賞しました。


ブラックホールという概念のはじまりは、1916年にカール・シュバルツシルトがアインシュタインの一般相対性理論から重力場を記述する最初の解を見つけたことにさかのぼります。それは、ある質量をもつ「もの」の大きさをどんどん小さくしていき、ある大きさ「シュバルツシルト半径」以下にすると、そこからは光さえも脱出することができなくなる、ということを予言するものでした。

ブラックホールが実際に宇宙に存在しても、光さえも脱出できないのですからこれを直接見ることはできません。しかしブラックホールに何か物質が吸い込まれるとき、物質は直前に、たいへん高温になってX線やガンマ線を放射するので、その信号をとらえることで、吸い込まれる直前の物質の状態を知ることができます。最近のX線観測により、この物質の断末魔の様子がひじょうに詳しくわかって来ました。

●X線観測からわかること

太陽の30倍以上の重い星は、進化のはてに自らの重力でつぶれてブラックホールになると考えられています。このようなブラックホールが図のようにふつうの星と連星をなしていると、ブラックホールの回りには、相手の星から流入してきたガスによって降着円盤とよばれる回転ガス円盤が形成され、その中心付近の最も高温の部分からX線が放射されます。

X線をとらえることで、大まかにいうとX線の(つまり波長)とという二つの情報を知ることができます。

よりたくさんのガスがブラックホールに吸い込まれるほど、大量のX線が放射されるようになり、同時に放射されるX線のエネルギーは高く、すなわち波長が短くなっていきます。また、X線を放射している領域、つまり降着円盤のもっともブラックホールに近い場所が広いほどX線の放射が多くなります。したがって、X線を観測することで、私たちは吸い込まれるガスの量ブラックホールの大きさすなわちシュバルツシルト半径を測ることができるのです。

実際、過去のX線衛星の活躍から、観測された円盤の半径はX線の明るさに関わらず一定に保たれることが確かめられてきました。また、ブラックホールの質量がわかっている天体については、質量から計算できるシュバルツシルト半径と、観測から推定したシュバルツシルト半径がよく一致することもわかってきました。

[連星系ブラックホール想像図]
図:連星系ブラックホールの想像図。通常の星(手前)のガスがブラックホールに落ち込み、降着円盤とよばれる回転ガス円盤ができています。ブラックホールに近い中心部ではX線が放射されます。

●ここにきて問題が生じた!

こうして、私たちはブラックホールという純粋に理論的対象を実際の宇宙の中に確認し、それを正しく理解しているという実感を持ちつつあります。しかしここで解決しなければいけない問題がでてきました。ブラックホールの観測数が増えるにつれて、このようなシンプルな描像ではどうも説明できないような現象が観測されはじめました。それは、ある種のブラックホール天体では、X線観測から推定した半径がシュバルツシルト半径とは関係ないあさっての方向の値になってしまう、という観測事実でした。今まで、観測された半径が一定でしかもその値がシュバルツシルト半径から計算できるということに基づいて、ブラックホール回りの現象を理解している、またブラックホールが実際に存在すると考えていたので、この観測結果はとても大きな問題です。

●何がおきているのか?

この問題を解決して、何がおきているのかを正しく理解するために、日本の「あすか」衛星およびアメリカのロッシ(RXTE)衛星で観測された8つの明るいブラックホール天体のデータ解析を行ないました。有名なはくちょう座X-1、大マゼラン星雲にある2つのブラックホール、ジェットを伴う2つのブラックホールなどを含みます。これらの解析から、ジェットを伴うブラックホールで、さきほど述べた問題が観測されました。これらの天体では以下の面白い事実がわかりました。

  1. X線の明るさがある一定の値以下のときには、その他の天体とおなじように、最初のシンプルな描像にしたがって、明るさが変わってもX線でもとめた半径が一定に保たれる。またこのときX線の色はゆるやかに変わっていく。
  2. 明るさの閾値では観測されるX線の色がとつぜん変化する。具体的には波長の短いX線の放射量がとつぜんふえる。(可視光で言い直すと、いきなり赤やオレンジから青や紫に変わる)このとき観測から推定した半径はあさっての方向になる。
  3. さらに明るくなると、2の状態を忘れたように、波長の短いX線の放射量はまた減り、X線の色はあたかも1の状態からのつづきのように連続的に変化する。
さきほどの問題は、状態2にみられるものでした。データをいろいろ見比べることで、解決の糸口は突然ふえた「波長の短いX線」にあることをつきとめました。また、この「波長の短いX線」は、状態1や3に定常的にみられるX線の放射の一部を吸い上げることでまかなわれていることもわかりました。これらの状況証拠を一つ一つ調べあげることで、「2の状態というものは、1や3の状態にある降着円盤のまわりに高いエネルギーをもったプラズマが取りまいていて、降着円盤からの直接のX線放射を高エネルギー側(波長の短い側)にたたきあげているのではないか」という仮説を得ました。

そして、この効果をとりいれて、データを再び解析しなおしたところ、プラズマの下に隠されていたX線の色は状態1や3と連続的につながること、また一見あさっての方向にみえた半径も実は一定となっている、つまりやはりシュバルツシルト半径で決まっているらしいことがデータから導かれました。こうして、ブラックホールにおける観測的な問題に解決の糸口を与えることができたと考えています。また、上記の状態1、2、3を降着円盤の最新の理論計算と比較して、ブラックホールの降着円盤における統一的な描像が得られました。


連絡先:
宇宙科学研究所 久保田 あや (くぼや あや)