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新種ブラックホール発見

2000年9月13日

鶴 剛(京都大学 理学部物理)、松本浩典(マサチューセッツ工科大学)、松下聡樹(ハーバード大学スミソニアン宇宙物理学研究所)、川辺良平(国立天文台野辺山)、小山勝二(京都大学 理学部物理)、粟木久光(愛媛大学 物質理学)、河合誠之(理化学研究所)、日本天文学会

"Descovery of a Luminous Variable Source at the Off-Center position of M82", H. Matsumoto, T. G. Tsuru, K. Koyama, H. Awaki, C. R. Canizares, N. Kawai, S. Matsushita, A. Prestwich, M. Ward, A. L. Zezas, and R. Kawabe, 2001, Astrophysical Journal Letters 747, 25-28
本記事の内容は2000年9月12日に記者発表しました。


これまで、X線をはじめとする様々な観測から、宇宙には二種類のブラックホールが存在していることが分かっていました。一つは白鳥座X-1に代表される太陽の5〜10倍の質量を持った小型ブラックホールで、恒星がその進化の終末に起こす超新星爆発の中から誕生すると考えられています。

もう一つは、銀河の中心に存在する太陽の百万倍以上の質量を持つ巨大ブラックホールで、中には我々の銀河系一個分の質量(太陽の千億倍)に迫るものもあります。このような巨大ブラックホールはクェーサーなどの特別な銀河の中心にのみ存在するのではなく、私達の銀河系やアンドロメダ銀河といったごく普通の銀河の中心にも一般的に存在していることが、最近の観測から分かってきました。しかし、この巨大ブラックホールは一体いつどのように生まれたのでしょうか?世界中の天文学者が精力的にこの謎を追い掛けているかかわらず、未だ解明されていません。この巨大ブラックホールの誕生のメカニズムは、現代天文学の大きな謎の一つなのです。

その謎を探るために、私達は大熊座の若い銀河である不規則銀河M82にターゲットを絞り、図1の四角で囲まれた領域をアメリカのX線天文衛星チャンドラを用いて精密なX線観測を行いました。チャンドラ衛星は、世界最高の光学望遠鏡の一つである日本の「すばる」望遠鏡に迫るピントの良いX線カメラを持ち、X線で銀河系中心部の複雑な構造を細かく調べることが初めて可能になった画期的な衛星です。

[M82のX線写真]

図2は私達が撮影したM82の中心領域のX線写真です。写真右側に見える、ひときわ明るく輝くX線星が新しく発見されました。このX線星の明るさとその時間変化を調べるたところ、この星はブラックホールであることは間違い無く、しかもその質量はこれまで知られていた二種類のブラックホールのどちらにも含まれない、ちょうど両者の中間の質量を持つブラックホールであることが分かりました。私達はこれまで存在すら知られていなかった新種のブラックホール、つまり「中質量ブラックホール」をM82の中で初めて見つけ出したのです。

この中間の質量を持つブラックホールは、どうしてそこに生まれたのでしょうか?M82がスターバーストと呼ばれる現象を起こしていることに、その謎を解く鍵があると私達は考えています。スターバーストとは一度に大量の恒星が連鎖反応的に誕生する現象のことです。M82の中心領域では、私達の銀河系の数千倍のスピードで恒星が誕生し、やがて超新星爆発を起こし、数多くのブラックホールが現在も誕生し続けています。実際、今回発見された中質量ブラックホールの近くに、やや小型のブラックホールがいくつも一緒に発見されました(図2の矢印)。ここはさながら、星とブラックホールの超過密地域であると言えるでしょう。

このような超過密地域では頻繁に星同士の近接遭遇や衝突が起ります。その結果、恒星や小型のブラックホール同士が次々と合体し、中質量ブラックホールが生まれたのではないかと、私達は考えています。そして現在も周囲の恒星や小型ブラックホールを飲み込み続け、ますます成長をしているはずです。今回発見した中質量ブラックホールは、このように合体と成長とそれに伴う大爆発を繰り返しながら、現在空席となっているM82の中心に落ち込んで行き、やがては銀河の中心の巨大ブラックホールに成長していくに違いありません。


この記事に関するより詳しい情報については京都大学宇宙線研究室のページを御覧下さい。
連絡先:
京都大学 理学部 物理学教室 鶴 剛 (つる たけし)
マサチューセッツ工科大学 松本 浩典 (まつもと ひろのり)